緑 ~誓いの言葉編~
「俺たちの世界の結婚式?」
思い切って切り出すと、緑はきょとんとした顔をした。
椅子に座ったまま、そんな彼を私は下からのぞき込む。深紅の目が、とてもよく似合っている。
この目の色は、人の持つ色ではない。
私の眷属になり、強い魔力を持ってしまった証拠。美しい緑のその目は、私には宝物。
精悍で細く締まった体付き。それに暗い髪の色が、また目の色に映えて、ぞくりとするような色気を時々醸し出す。
「……どうした?」
「ああ、あ、その、ごめん。ぼーっとしてた」
慌てて取り繕うと、緑は頭を掻きながら返してきた。
「お前、そういうの気にしないタイプだと思ってたんだが……気になるのか?」
そういえば、あちらの世界の結婚の風習について話をしてたんだっけ。
こくこくと慌てて頷くと、緑は苦笑いをしながらベッドに座った。ポンポンと横を軽くたたいて、隣に座るように誘ってくる。
「いいぜ。じゃあ、こっちに来たら教えてやるよ」
「うん」
緑の隣に誘われたことが嬉しくて、私はにっこりとした。しかし呑気に近づいた私の目の前が、急に真っ白になる。同時に、何かひんやりとしたものが頬にあたる。
布……シーツ? これはなに?
びっくりして、その正体を思い巡らせていると、突然背中から抱きしめられた。
「……緑?」
力強く引き寄せられ、私はあっと言う間に、緑の腕の中に納まっていた。
「本当はレースのヴェールに、ドレスなんだけどな。まあ、いつかちゃんとしたの着せてやるから、今はこれ被っただけで許せ」
緑が息が触れるほど、顔を近づけて囁く。
「あっちの世界ではな。こうやって、ヴェールを被った花嫁と、誓いの言葉を交わすんだ」
「誓いの言葉?」
「ん、そこは実際にやって見せたほうが早いな。いいか、俺がこれから言う事に、ただイエスというんだ」
「うん、わかった」
素直にうなずくと、緑は静かに眼を細めて、私と向かい合った。
「汝、緑を生涯夫とし、幸せや喜びを共に分かち合い、悲しみや苦しみを共に乗り越え、永遠に愛することを誓いますか?」
「永遠に?」
「そう、永遠に」
くすくすと笑いながら、緑が耳にキスをしてくる。くすぐったい。
「お前は、俺たちが死ぬまででいいよ。生きている限り、傍にいてくれれば」
「ずっとそばに……いてくれるの?」
緑の瞳を、ぼんやりと見つめ返す。
いつも飄々とした、つかみどころのない緑の表情。
でも、最近わかるようになってきた。こういう時、緑の目の紅色には、かすかに熱がこもっている。
……少しだけ、本気の緑が透けて見える。
ドキリとした。
「正直こういう時、どうしたらいいのか、よくわからない」
「どうして?」
優しく甘い声が追いかけてくる。私はドキドキしてたまらなくて、ぎゅっと目をつぶった。
「今まで誰かに求められたことも、傍にいてほしいと願われたことも、……傍にいてほしいと誰かに伝えたこともないから」
俯いてぎゅっと身を固くしていると、緑がくすりと笑って、私の耳元に手を差し入れた。
「お前、本当にこういう恋愛ごとに慣れてないんだな」
「そんなこと言われたって……」
「俺達だけのものって実感して、嬉しくなる」
そう言って額にキスされた。
だって、仕方ないじゃない。私は恋愛は、全部緑と心が初めてだから。
「いるよ。ずっと傍にいる。だから誓って」
「誓えばいいの?」
「そうだよ」
腕の中で囁かれると、また耳に吐息が触れて、また身体がぞくりとした。
なんだか、ふわふわする。
「……誓います」
力が抜けて震える声で返すと、そっと後頭部をつかまれた。
緑の顔が近づいてきて、背中に腕の力を感じる。唇を少し吸われて、チュッと音がした。
「俺も、誓います」
そのままベッドに押し倒された。
「お前を生涯妻とし、幸せや喜びを共に分かち合い、悲しみや苦しみを共に乗り越え、永遠に愛することを誓います」
いつもみたいにおどけた態度で、でもどこか真摯な響きをもって、緑は告げる。
私は鼓動が早鐘を打つあまり、まるで酸素が足りない魚のように浅い息をしながら、それを聞いていた。
「こら、黙ってないで、何か言えよ」
「何かって言われても」
「俺一人で言わせんな。恥ずかしいだろ」
でも私も、気持ちが伝わりすぎて、胸がいっぱいで、逆に言葉が見つからない。
「そんな風に少年みたいに笑った顔、初めて見た」
やっとのことで口にすると、きょとんとした顔をされる。
「ん?」
「また、知らなかった緑を、知ることができて、嬉しい」
「ああ。そうかよ」
そして私の反応に苦笑いしてから、告げた。
「俺たちは、これからもっともっとお互いを知っていく。ずっと、それこそ長い時間をかけて」
出会ってまだ三か月。
本当は知り合う事すら、できなかったはずの人。
それなのに、もうこんなに深い縁を結んでしまった私の運命の相手の一人。
今度は首筋に吸い付かれて、服の上から大きな両手で、胸を包み込むように触れられた。それだけで、身体が勝手に続きを意識して、吐息が漏れる。
「誓った後、式を終えた新郎は花嫁を抱く。そういや、初夜の考え方はこちらの世界でも一緒だったっけな」
語りかけながら、下着越しに胸の先をつまんだり、太ももを触ったりしてくる。与えられ続ける刺激と、優しい指先に私は、ん、と小さく声を漏らした。
「可愛い声だ」
ゆっくりと敏感なところを順番に触れられていく。もうなんだか堪らなくて顔をそらすと、追いかけるようにキスをされた。
「ちゅっ……はっ、ん」
翻弄されて口を開くと、隙間から緑の舌が入ってきて、歯列を舌先でなぞられた。
それだけで触れられたところから快感があふれ出て、身体がピクピクしてしまう。
こんな、私ばかり気持ちよくさせてもらってちゃダメ……私も頑張らなくちゃ。
せめてお返しにと、夢中で舌を絡める。すると今度は足の奥に手を伸ばされた。
「んっ……や、緑」
「もうちゃんと濡れてる。身体の準備、早くなったんじゃないか? それとも俺の教育がいいのかな」
緑は一端体を離すと、唾液に濡れた自分の下唇をぬぐった。
まるで獲物をしとめたような瞳でこちらを見据えたまま、ベッドの脇に膝立ちになり、上着を脱ぐ。
「あ……」
ドキンとまた心臓が大きく跳ねた。引き締まった彼の肉体がセクシーすぎて、目が離せない。
緑の裸を見るのは、初めてじゃないのに……いつも行為が始まるときは、なんでこんなに恥ずかしい。
「今夜もとても美味しそうだよ、花嫁さん」
「緑、少し待って」
「待たない」
言うが早いか、緑は私の寝着をたくし上げると、胸の先を口に含んだ。乳首を舌先でコロコロと転がされる。身体の奥から、じわじわと快感の波がこみあげてきた。
部屋の中は、ジュッジュという濡れた音と、お互いの息遣いだけが響いている。
私の下半身の奥は、刺激し続けられて、もうぐっしょりと濡れていた。ずらされたショーツの脇から、緑の二本の指が何度も出たり入ったりしている。
「んん……んっ、は」
もう快楽が高まりすぎて苦しい。涙目になりながら、自分の顔を枕に押しあてる。
と、その時、ゆっくりと愛撫していた指を引き抜かれた。
滴り落ちる愛液を、わざと見えるように舐ってから、緑が掠れた声で告げる。
「入れるぞ」
間もなくして、彼の張りつめたモノが、私の隙間に押し入ってきた。押し広げられる感覚に、息を飲む。
「ふ、あ……ん、んんっ」
反射的に腰を浮かすとそのまま固定され、膣の上側になすりつけるように、ぐりぐりと刺激された。
的確に与えられる刺激に、声が漏れる。
なんだか悔しい。緑はもう何度も抱いて、私が感じるところを完全に覚えてしまっている。
当たり前のように、恥ずかしい私のスイッチを容赦なく押してくる。
誰も近づこうとさえしなかった私を躊躇なく暴いて、可愛がって、抱いて、欲しがって、気持ちよくなって、……数えきれないくらい、愛して。
その幸せが、何度でも私を溶かす。
「はっ……くっ、んんっ」
だんだんと私を揺さぶる動きが、リズミカルになる。もう、声が堪えきれない。
思わず緑の腕にしがみつくと、彼は幸せそうに眼を細め、そのままさらに腰を動かすスピードを速めた。
「愛してるよ」
荒い息の合間に囁かれて、また体温が上がる。私は必死でしがみついた。
「はなれちゃ……やっ!」
息苦しいほどの快感に翻弄される。
「はっ……んっ、はっ」
ビクン、と大きく身体を震わせて、先にイったのは私だった。
けれどその直後、緑も数回大きく腰を打ち付けると、少しだけ呻いて緑も体を震わせた。達したらしい。
「はあっ……ん、はあっ」
乱れた呼吸のまま、私の隣に横たわる。
「ったく、もっともたせたかったのに」
少しだけ悔しそうに、緑はこちらに手を伸ばし、汗に濡れた私の前髪を払って言った。
「……え?」
「なんでもねえよ。もう寝ろ」
少しだけ照れたように呟き、腕を伸ばして抱きしめてくる。
「無理させたくないからな。お前、昨晩も本読みながら、徹夜してたろ。そんな奴にさすがに何回もはな」
……また徹夜、バレてたのか。
でもそんな理由で緑に我慢させてるとすれば、それはそれで申し訳ない。
「緑。別に、私、いいよ?」
もぞりと顔を上げて伝えると、もっと力を込めて抱きしめられた。
「バカ。こういう時は、素直に言うこと聞いとけ。でないと、今度はお仕置きするからな」
「お仕置き?」
「ああ、もっと元気な時にな。こってりとねちっこいやつ」
こってりと、ねちっこい……? 言い方からエッチなことしか想像できなくて、どうしようかドギマギしていると、緑にクスリと笑われた。
「俺、こんなにハマるタイプじゃなかったのにな。お前と欲深くなる。末恐ろしいよ」
「ん。……私も、緑にハマってるよ」
「そうかい。じゃあ、おあいこだな。……俺も少し寝る。抱き枕が暖かいから、俺まで眠くなってきた」
身体から響いてくる声が心地いい。私も小さく頷いた。
「うん」
伝わる体温が、安らぎをくれる。永遠に愛することを誓った人の傍で、私だけが許された場所で、眠れることの幸せを実感する。
甘えるように頬を胸元にすりよせると、くすぐったそうに緑が身じろぎをした。それを見て私も微笑む。
ありがとう。私も緑たちの傍にずっといるよ。だから今は……おやすみなさい。
終わり
心 ~媚薬のお酒編~
今思うと、それは油断だったと思う。
目元がズキズキする。喉の奥が渇く。体中が火照って、腰に熱がたまっている。
風邪に少しだけ似ているけれど、服が肌に擦れる感覚さえも感じてしまうから、どうしても息が荒くなる。
……ちょっと感覚が、二日酔いにも似てる。
そういえば昔、幼かった私の世話をしてくれた先代の魔女に、こんな話をされたことがあったっけ。
『旧王朝時代の蒸留酒は、新年の日にあけてはいけないよ』
『……どうして?』
『それはね。魔女や魔法使いが急激に減少した時代、あの頃の蒸留酒には……』
なぜ今になって、思い出したんだろう。せめて、もう少し早ければ。
後悔すでに遅し。だって今回出された酒の中に、まさか「あの時代」の蒸留酒が混じってたなんて……。
人間にとってはただのヴィンテージな酒でしかないが、あの時代の一部のお酒が、魔法使いや魔女といった魔族を、とても淫らにすることは、あまり知られていない。
もともと騒ぐのは好きだが、本当は性欲が薄い魔族が、無理にでも子孫を残すために、作ったアイテム。
それがなぜか人間に製法が伝わってしまい、ただの美味しいお酒として流行してしまった。
あれから千年。そして魔族という存在がほとんどいなくなってしまった今、それを知る人間もほとんどいないという。
「せめて宴会をしていた他の人に気付かれないうちに帰ってこられただけでも、まだマシだったと思おう」
ひとりごちる。やっとのことで家に帰りつき、もたれかかるようにドアを開けた。
しかし運悪く、ちょうどそこを通りかかったのは、心だった。
「おかえり……て、大丈夫?」
しまった、と思う間もなく、フラフラしている私を見て、駆け寄ってくる。
……わ、もう声だけで腰にクる。
思わず膝が崩れた。心配してくれるの嬉しいけど、今は駄目。
私は心を見上げ、平静を装いながら、必死に笑おうとした。
「平気。ていうか、ちょっと飲みすぎただけだから」
「あなたにしては珍しいね。ベッドまで肩貸そうか?」
心の申し出に、慌てて首を振る。
「大丈夫。ありがとう。少し寝れば治ると思うし」
今触られたら、どんな浅ましい反応をしてしまうか分からない。
「本当に? あんまり大丈夫そうには見えないけど」
「い、いい……。」
「じゃあ、お水持ってくるね。寝室でいい?」
台所へ向かった心を見送って、私はそっと息を吐き、寝室でベッドに倒れ込んだ。
「あっ……んっ」
ヤバい。そのシーツの冷たさにさえ、刺激されてしまって、身体がピクリと震える。
少し積極的に動こうものなら、それだけでイッてしまいそうだ。
ああ、もうこれ、どうしたらいいのかな。
完全に、媚薬飲んじゃったみたいな状態になってる。
こっそりオナニーして、少しずつ熱を逃がしたほうがいいのかな。
でもやり方がよくわからない。
今でこそ毎日のように愛してもらっているけど、緑と心に出会うまで、エッチなこととか自分は縁が無いと思ってたから。
でも、こんなこと、他の人になんて頼めないし……。
ぐるぐると考えていると、寝室の入口から声をかけられた。
「どこでそれ、飲まされたの?」
「……え」
「今のその状態、お酒じゃなくて、催淫剤の類でしょう。あなた、何されたの」
いつの間にか、心が水を持ったまま、立っていた。
心の声は少し怒っていた。ゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる。そして、ベッドの脇に黙って腰かけた。
「んっ……」
「ごまかせたと思った?」
座った時に伝わってくる波打つ振動もまた刺激になって、私は必死に声を抑える。
「んっ……は、それ、は、その……」
言い訳をしたいのに、肝心な言葉がうまくでてこない。
「僕を、誰だと思ってるの。回復士の勉強をしてるんよ。クスリと、クスリに伴う影響を熟知するエキスパートなんだから」
そう言って私の胸の頂に触れてきた。心が触れたところから、ビリビリと電気のような痺れが走る。
「はっ……く、ああっ」
それだけで、私はあっさり達してしまった。しかし心はそれを見ても眉一つ動かすことなく、今度はその先っぽを捻りあげてくる。
「はっ、あっ……ひっ……ん」
強烈な快感が何度も貫く。イッているのに、さらにその上から雷のような刺激が執拗に上書きされる。
「あ、ああっ……うう、あっ」
「こんなに乳首を固くして、いったい誰にこんな風にされたの」
心は指先でつまんだ乳首を、離してくれない。それどころか時折指の節でもぐりぐりとされ、緩急つけた刺激がたまらなくて、何度も腰が浮いた。
「はあっ……んっ、ああっ、しっ……、んあっ」
息が苦しくて、涙目になりながら、腕に縋り付く。すると心は、微笑みを湛えたまま、私の頬をなでた。
「許してほしい?」
「え……」
「ああ、この言い方じゃ、あなたには伝わらないか。僕に抱いてほしい? 早く楽になりたいでしょう」
喉が渇いてたまらないところに、一杯の水を差しだされたように、目の前がチカチカした。
全身が泡立つように、心が欲しい。
抱いてほしい。触ってほしい。思いっきり突っ込んで、たくさんかき回されたい。だけど。
「んっ、へい、き……」
私はほとんど砕けかけていた理性をかき集め、やっとの思いで声を絞り出した。
「どうして。とてもそういうふうには見えないけど」
「誰にも、何も、されてな……。ただ、失敗したの、私、だから。心に、迷惑、かけられ……な……」
「だったらあなたって人は、なんでこういう時に、甘えてこないの?」
少し苛立つように表情を曇らせると、心は太ももに右手を滑らせ、いきなり私の脚の奥に触れてきた。
すっかり濡れそぼった割れ目をショーツ越しにゆっくりと押され、私はまた達した。
「ひっ、あっ、ひいっ……んんっ」
「あともう少し頑張って」
「んっ、はっ……あくっ」
「意地悪で言ってるんじゃないよ。この手のものはね、本当に厄介なんだ」
話している間もクチュクチュと音を立てながら、筋に沿って絶え間なくいじられ続ける
「一つは理性を突き崩す。身体が先になって強烈に快感だけを求めるから、触れられると誰が相手であっても、抵抗できなくなる」
「はっ……あっ、はっ、ああっ」
腰が揺れて仕方ない私の奥に、心の指が押しこまれてくる。
「でも大丈夫だよ。今、あなたの奥を侵しているのは、僕の指だから。ここは僕たち以外には、誰にも触らせない」
言いながら、心は私の右耳を舐めた。濡れた音とともに囁かれる。
「こんなに乱れたあなたを、僕たち以外に見せるなんて、ありえないよ」
「はっ、ああっ、はあっ……んんっ!」
ぐちゅぐちゅと音を立てて、膣の中の弱いところをこれでもかと擦られた。
頭の中がショートする。
ただでさえ、心は私の身体を私よりもよく知っている。どこを押せばどう感じるか、もうすっかり知られてしまっている。
何度も……何度も、声が枯れてかすれても、心は指を動かすのをやめない。
彼の二本の指が、まるで私のひだの中を泳ぐように動いて、そのたびに私の身体は爆ぜた。
「やめ……もう、おねが……んっ!」
苦しくて、涙が出てくる。なぜ指ばっかりなの。心は私を抱いてくれないの? どうして……。
靄がかかっている意識の中、止まらない喘ぎ声を出し続けながら、だんだん切なくなっていく。
触れてくれているのが心で、私と結ばれた相手で。
それなのに、今こんなにも中途半端な状態にされているのはどうして。
……心は私のことを怒っているの? もう心は私のこと、いらないの?
考えているだけで辛くて、ぎゅっと目を閉じる。すると突然指が止まって、鼻先にチュッと軽いキスをされた。
「あなた、また勝手に一人で先走って、変なことを考えてたでしょ」
「え……」
驚いて見上げると、心が苦笑していた。
「さっき言ってたこの手のものが厄介な理由、もう一つ。それは催淫効果のあるものに侵された状態でセックスすると体の感覚がおかしくなる」
頬をゆったりと撫でられる。さっきから何度も触られてイカされたせいか、もう変なゾクゾクはしない。
その代わり、触れられたところが暖かくて、じんわりと嬉しくて、別の意味で泣きたくなる。
「身体の快感の受け入れ方が変わるんだ。いびつに触覚だけが強調されて、性的な興奮が増すように感じるんだけど、本当はバランスが崩れただけ。そんなエッチをあなたの身体に覚えさせて、苦しめたくはないよ」
心がチュッと私にキスをした。少しずつ舌を絡め、ゆっくりと私の口の中を犯していく。
その丁寧な触れ方が嬉しくて、夢中で彼の舌を追いかける。
「だから、薬の効果が薄れるまで、頑張ってたんだけど……そろそろ大丈夫そうかな」
はあっと熱に浮かされたように目を細め、心が私の上に馬乗りになって上着を脱いだ。
「僕が本当の、気持ちがいいセックスをしてあげる」
前に見た時より、心の身体は引き締まっていた。
ドキリとした。魔女の婚姻を交わしてから、また色気が増した気がする。もう最初に出会った頃みたいに、無邪気だなんて思えない。
「心は……本当は、嫌じゃない? 私のこと、面倒くさく……ない?」
「どうして」
「どうしてって……だって私、ドジで、こんなことに」
「そんな理由で、もうこれ以上僕に我慢させないで」
欲にけぶった赤い瞳で、心は不満そうに言った。
「あなたをこの状態にもってくるまで、結構大変だったんだから」
「……心」
「僕の指でよがるあなたの甘い声、結構クるんだ。それをさんざん聞かされた身にもなってよ」
誘うような口調で、心が張りつめたソレを、私のお腹の上にあててくる。その興奮が嘘ではないと直接肌に教えてくれる。
「もう、欲しい。あなただって、僕のことが欲しいでしょ」
囁かれて私はもう何も言えず、目を閉じる。
するとその瞬間を待ちかねていたように、噛みつくようなキスをされた。
いつも優しくて落ち着いている心にしては、珍しい性急なキス。でもそれが嬉しい。彼がこんな一面を見せるのは私だけだと思うと、むしろ誇らしい気持ちにさえなる。
「ちゅっ、はむ……む、はっ、んんっ」
深くなるキスに夢中になって背中に腕を回すと、心は私の隙間を埋めてきた。
「はっ、んっ……やっと、あなたの中に」
荒い息の下、彼がそっと囁く。
「入った」
ゆっくりと腰を揺すられて、私はたまらず嬌声をあげた。
「あ、はっ……あ、んっ」
「『あともう少し、頑張って』」
さっき言ったセリフを悪戯っぽく繰り返すと、心はそのまま腰を動かし始める。
我慢していたせいか、心の動きはいつもより激しくて、それが余計に歓喜となって私の身体に伝わった。
「んっ……はっ、ん」
こらえ切れない心の吐息に、私の熱も上がる。
お酒の催淫効果のせいじゃなく、それよりも何倍も、心の色香が私を酔わす。
「は、やっぱ……気持ちイイ。あなたの中、……すごく」
揺さぶられて、身体の奥まで、心の声が刻み込まれる。
求められる嬉しさと、受け入れてくれている愛しさと、ぐちゃぐちゃに混ざり合って堕ちていく。
「ちょうだい……もう、心、おねが……」
息も絶え絶えにねだると、ゾクリとするような淫靡な声で、心は返した。
「……いいよ。お望みのままに、お姉さま。いくらでも何度でも、僕を注いであげる」
直後、大きく突かれ、私は果てた。それから何度か腰を揺らして、心もイッたようだった。
繋がったまま私の身体を引き上げ、そのままぎゅうと抱きしめられる。
そして荒い息の下、心がコツリと額を合わせてきた。
「もう、あんまり心配かけないで」
「ごめんなさい」
「どういう経緯でこんなことになったかは、後からしっかりと話してもらうけど。あんまりうかつに、変なものをつかまされないでよ」
「……うん」
「気持ちのいいことは、ちゃんと僕たちが溺れさせてあげるから。ナカが渇く暇もないほど、ね」
囁く声が気持ちよくて、私は心の胸にもたれかかりながら、目を閉じた。
あれ。なんだか安心してしまったら、意識が……遠く。
「て、魔女さん! このまま、力尽きちゃったの? まいったな、もうちょっとしたかったのに」
ごめんなさい。もう身体がうまく動かせない……ひどく眠くて。
「はあ、今日は最初がハードだったからな」
残念そうに心は抜くと、そのまま二人でベッドに横たわる。
「仕方ないな。『許してあげる』。その代わり今晩、抱きしめて寝るくらいは許してよ。緑もいないし」
そして布団をかぶると、そっと心の腕の中に囲われる。温かい体温にとろけそうになっていると、耳元でささやかれた。
「目が覚めたら、もう一回くらいできないかな、なんてまだ期待してるよ。じゃあ、おやすみなさい」
終わり